ラノベ「灰と幻想のグリムガル」14+巻 感想 ランタ△ 新しいグリムガルの形が提示された【ネタバレあり】
こんばんは、へるもです。
灰と幻想のグリムガル14+(プラス)巻の感想です。
例によってネタバレがあるのでご注意ください。
灰と幻想のグリムガル 14+巻 十文字青著
ゴブリンの話
なんだこれは…
グリムガルの世界の存在は全てフロム地球であり、同じ人間に由来する精神がいくつもあるということを示唆しているのでしょうか。
しょつぱなにこの話が来て続く話のクオリティに危惧を抱いたストーリーでもありました。
どれが夢?、どれが本物?脚の欠けたいすの上に立っているよな世界観はこれぞグリムガルと...言えるかもしれないです。
マナトの話
最初の方で死亡してしまったマナトのキャラクターが明確になったお話です。
いやーマナトつらっっ!走馬灯時の回想を見るに、きっと前の世界では合理主義者すぎてついていけないと扱われる感じだったんでしょうね。
有能だけど人の心が分からない、的な。
やっと目的に沿った生き方と好きな生き方をすり合わせることができそうだったのにその矢先で、、、
灰と幻想のグリムガル 14+巻 十文字青著
はるひろたちといれるにんげんではない
このストーリーで意外だったのは、自信満々な思考とは裏腹に、ちらちら見える自己嫌悪や自身のなさを感じられるところです。上のセリフからそういったニュアンスをもって生きてきたんだろうなとは思っていましたが、まさかここまで明確な形であるとは。
その根本にあるのはきっと、周囲と自分のズレなんでしょうね。
合理主義者の考え方
人との付き合い方はいくつかあるんでしょうけど、彼の場合まず目的の達成がマストなんですね。
グリムガルの世界においてなら「義勇兵になるから闘わなければならない」。
その生き方が大前提にあって、それから仲間たちのことについてどうしたら目的を達成できるか”合理的”に考え始めます。
仲間たちの善良な部分には気づいていても、それすら闘いのスペックにどう影響するかにどうしても紐づけて考えており、ある意味、他人を駒扱いしてしまっています。
シホルとつきあってしまえば完全にコントロールできるだろうなーと考えるのは、合理主義者を通り越して悪い男の発想ですらあります。笑
合理主義者とその他大勢とのズレ
弱小パーティであるこのときは強いリーダーシップという良い結果が現れていますが、回想のように悪い方向に出ることもあったのだろうな。
例えば、このまま冒険を経て仮に誰かが死んだとしたら、悲しむ仲間をよそに”合理的”に考え、やむをえなければその死体を囮に使い、仲間の反発を生むような、、、これは完全に妄想ですが、ハルヒロたちと、、、というセリフの背景には、マナトが経験してきた軋轢を感じます。
必要だからそうしたのに、周囲はわかってくれない。じゃあどこまで非合理な選択なら周囲と自分とのズレはなくなるの?みたいな。非常に難しく、悲しいズレですね。
悲哀に満ちた世界
何が悲しいって、マナトはそのズレに自覚的で、そこから来る痛みを割りと感じているところですよね。
ハルヒロたちが楽しく会話してる中に入れていないと疎外感を感じているシーンがありましたけど、これは一種の防御反応に見えました。
少し離れたところに身をおくことで、仲間からの反発や失意があってもそれを切り離せる準備をしている感じでしょうか。その代償が、楽しいはずの場を心から楽しむことをできない疎外感ではないでしょうか。
そして疎外感を感じているということは、彼は仲間を強く求めていたのでしょう。
当たり前
目的にまい進するレンジ、現実主義者のハルヒロ。マナトが心を許すことができたであろう二人がいたのに、残念ながら時間だけが足りなかった。
当たり前のように明日がくると思っていたというセリフを残しながら死んでいくのはグリムガルらしくあります。
後味の悪い話というより、サバンナで脚を負傷し死んでいくチーターを見ているような自然の摂理を目の当たりにしてしまった気分になりました。
ユメの話
んーよく分からん!
実はちょっと頭が悪すぎてついていけないキャラです。
マスコットとしてはスキですし、ハルヒロが絡むと男女の友情は成立するのかみたいなシチュエーションになって読者にとってはご褒美シーンを作ってくれるのですが、主人公にしてしまうと話が溶けます。
ゆるゆるで無防備でおおらかなのがユメですよ、というお話だったのでしょうか。
マナトの死後、ハルヒロに物申していたころと比べるとすごく知能指数が低いです、、、ルフィ的な意味で。
シホルの話
灰と幻想のグリムガル 14+巻 十文字青著
ほんわかとしたユメの話から一転、何か嫌なものを見た気分になったのがシホルの話です。
話の組み立てはいたって普通でした。弟子入りしたのはエロじじいで、どうしようもないやつと思いきや重要な示唆を与えてくれる、というのは定番ですし、巨乳キャラがセクハラされるというのもまたお約束です。
ただ、13, 14巻でのシホルの苦しみを見てしまうと…これがなかなか素直に笑えません。
改めて振り返ってみると、今回の話も含めて、シホルの話題って胸しかなかったような気もしてきました。ダーク(今回の話もこれに近くはある)とか副官の話とか、探せば色々あるんでしょうけど...
ただのギャグとしてストーリーが展開してるのですが、シホルが誰かの1番になる日がくればいいな、と次巻以降での救いを求めてしまうお話でした。
おまけ
書いていて思いましたけど、疎外感を感じながら仮面(建前)をかぶって取り繕っているこの感じってマナトと似ていませんか?作中では一方的な関係でしたが、案外ラブラブ(死語)カップルになっていたような気がします。
ランタの話
ランタかっけぇ!と思わなかった読者はいるのかな。
強さとタフさを手に入れたランタは凄くかっこよく仕上がっていました。いつの間にか帰ってきてるし(笑)
ランタがここまでかっこよくなっていると、その他パーティは見劣りしてしまうのでは、と少し心配してしまいます。なんならここで主人公交代とかもありえるくらいの存在感がありました。
灰と幻想のグリムガル 14+巻 十文字青著
「俺は俺の心に従っているか」
ランタがかっこいいと思った根本はまさしくこの言葉にあります。
次にいつ食べ物を得れるかよく分からないときによく分からない存在に食べ物を分け与えたりすることができるでしょうか。
管理人は善良な人間を自称していますが、それでもそんなことをできる自信がありません。
ランタはちょっとした迷いはあったものの特に恩着せがましくもなく、条件をつけることもなく、食べ物を分け与えました。そして、遺骸をきちんと埋葬もします。
なぜなら「俺の心」がそう言っているから。
別に欲がないのが素晴らしい、振る舞いが立派だから素晴らしい、そういうことを言いたいわけではありません。
フォルガン離脱編までで見せていた色々な迷いや、言動や能力から垣間見れる単独行動になってからの厳しい環境にも関わらず、自分なりの生き方を見つけ、それを貫き通してきた生き様がただただかっこいいのです。
(そんな環境で生きてきたのに倫理観を失ってないのもよいです。ここらへんはなんとなくそれがランタって感じがしますね。マナトは普通に手を汚しそう)
ランタの2面性
ランタはなぜこのような強さを手に入れられたのでしょう。それを考えるにあたって思い浮かぶ重要なことはランタの持つ①仲間意識と②なりふり構わない向上心です。
①ランタにだってパーティの一員であるという仲間意識はある
実力に乏しく何かと思い悩むハルヒロパーティですが、ランタはその悩みがパーティメンバーに向けられていたように思います。
サイリン鉱山あたりでは自分のことをみんなが嫌っているというのは分かっている、というセリフがありましたし、vsフォルガン編ではハルヒロに本当の殺意を向けられて憤然と言うよりは虚しさのようなものを感じたりしていました。
フォルガン側についたときに今後どうなるのかと思いましたが、結局はオルタナを一心不乱に目指している姿を見ると、ランタにとってやっぱり仲間が大切だったんだなということが分かります。
②現状に満足”できない”向上心
こういった仲間意識に対立してしまうのが向上心です。
それも単なる向上心ではなくなりふりを構わない向上心です。悪徳をゲットしゾディアックンを強化することにはひたむきなほどでしたし、敵から奪った武器を使ってみるなど経験をつむことに余念がありませんでした。
その飢餓感のような向上心は時にはパーティを困惑させます。
もともとが自分勝手なところもあり、残念ながら周りを巻き込んで自分の行きたい方向にいく能力がなかったので、全ての行動が一緒くたに”ウザい”に繋がってしまっていました。
ランタがかわれた理由とは?
パーティで行動していたときのランタは①仲間意識が②向上心を阻害していたように思います。好きなように動きたいけど、後衛のことを意識してうまく動けないという板ばさみというのは時々描写されていました。
そう考えると一人になり、①を考える必要がなくなったからこそ、②を存分に発揮でき、強くなれたのではないでしょうか。
もしこれが妥当な解釈なら仲間と同行するとランタのよさがスポイルされてしまうことになります。ランタがこの先ハルヒロパーティに合流することはあるのでしょうか。
きっとこれこそが読者のみたい話だったかも
グリムガルといえば、俺YOEEE系といわれたように、パンツを買うのも苦労する世界観というのが推されていました。
確かに私も含めてぎりぎりの環境で戦うハルヒロたち、という部分に惚れている読者は多いのではないでしょうか。
そういった話を聞くと主人公たちの成長はグリムガルという小説のもつ特徴を消してしまうのではないかと思っていたのですが、この話を読むとはっきり違うと分かりますね。
どれだけ主人公たちが成長したって、より強い人はいるんですよね。最後に出てきたタカサギのように。
自分が強くなってももっと強い人、厳しい環境があって、その未知の世界にワクワクしてきたんだなって思います。